【魔法戦艦リュケイオン】++放浪篇++家族の時間

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魔法戦艦リュケイオン
++放浪編++

家族の時間


◇ ◆ ◇

[序]

「母さん、人間は何んのために生きるの?」
ある日長男の剛徳(タケノリ)が私に聞いた。
「それはね、大きな幸せをみんな一緒に楽しむためよ。」
私は迷わずそう答えた。
「大きな幸せをみんなで、か・・・」
漠然とした面持ちで、積乱雲の立ち昇る夏空を見上げる息子の姿を、私はいつしか子供時代の自分の姿と重ねて見てしまうのだった。

遠い昔、自分自身の生き方に迷い、親やら学校の先生やら社会の変化やら、ありとあらゆるモノタチに突っ掛っては突き返され、それでも懲りずにまた突っ掛ってはまた追い散らされ・・・。

幼きこの息子も、いつか昔の私のように、激しい闘いの日常に、その身を焦がしてゆくことになるのかもしれない・・・。


[ここまでのお話]

科学技術の集積により、空前の繁栄を迎えた美濃・土岐自治州。
だが、幾多の労苦・試行錯誤の末にようやく積み上げた技術と繁栄を、横合いから手を伸ばして奪い去ろうとする者たちが現れた。

奥州地方を勢力範囲とする火群の宮家から皇太子妃となった魔女・煬妃と、彼女ヘの忠誠を誓った煬妃親衛隊。
彼らの策謀によってあらぬ罪を着せられ、滅ぼされた州知事神龍兵の無念を晴らすため、その妻子、『わかば・ジンギ・さおり』は素性を隠して、復讐の時を伺っていた。

名前もそれぞれ『芙美子・剛徳・晶子』と改め、越前・三国自治州の港町で秘かに暮らしていた母子だったが、やがて芙美子は職場の上司『夏目高太郎』と再婚。

一家にやすらぎのひとときが訪れていた・・・。


◇ ◆ ◇

「母として、女として。」【1/3】

「♪ゆけぇ~~★ゆけぇ~~★冒険の道ぃ~~♪」
子供 たちばかりか、私たち夫婦まで大はしゃぎの旅程だ。
大きなワゴン車を借り、九頭竜川の上流に向けて州道を走ってゆく。
エアコンなんかかけずに、自然の空気をたっぷりと通して、緑の林に挟まれたくねくねと細長い州道をぐんぐん走り抜けてゆく。
荷台には、これから数日を過ごすためのテントや食料、飯盒に鍋に焼き網など、あらゆるキャンプ用品が満載されている。

朝早く、三国港(ミクニコウ)の都会を出発し、やがて田んぼや畑の広がる地域を抜け、林がだんだん深くなって来ると、時に平行し、時に橋で渡る九頭竜川の趣きは、日頃見慣れたコンクリートの護岸に囲まれた無機質な河から、緑の樹々と大小の岩石に縁取られた自由奔放に屈曲する細流[せせらぎ]へと変化してゆく。

U字型の谷を挟む崖の上は真夏の濃い緑におおわれ、カッコウホトトギスの鳴き交わす声々と、水のせせらぐ音々とが、都会での日常をすっかり忘れさせてしまう。

いささかハイテンション気味に歌いまくっていると、やがてU字谷を包む梢の緑の向こうに、石造りの、小さいが堅牢なアーチ橋が見え隠れするようになる。

キャンプ場はもうすぐそこだ。

やがて車を降りると、一時間あまりもの間シートに座っていたせいでムズムズしていた体じゅうの筋肉を、「うぅ~~~んん・・・」
と伸ばし、噎(む)せるような萬緑の香気を胸の奥まで充たしてゆくと、しばし我を忘れてしまう。

まるでラジオ体操みたいな仕草が面白かったのか、剛徳は、わざと大袈裟なポーズで深呼吸をしてみせる。
晶子も弟のおどけたポーズを見て真似をし始める。
とうとう私たち夫婦も子供たちに合わせて
「「スーーーー、ハーーーー、スーーーー、ハーーーー・・・・」」

やがてお互いに顔を見合わせると、何やら他愛もなく大笑いを始めてしまった。
夏目一家の大笑いが谷じゅうにこだまするようだ。

やがて剛徳と晶子は、クンクン、クンクンと、犬のように突き出した鼻をヒクヒクさせて、何か楽しい出来事にでも誘われるかのように、トコトコと川原石で組んだ階段を降りてゆくのだった。

(つづく)


■現実の戦場で亡くなった兵士や、その父・母・兄弟姉妹・息子・娘に捧げる。太平洋戦争終戦の日に。
そして、私たち人類が、再び悲しい「仲間割れ」で流血の殺しあいをせずに済みますように。

儚い希望を願い続けよう・・・。