【魔法戦艦リュケイオン】++放浪篇++家族の時間

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魔法戦艦リュケイオン
【家族の時間】


「母として、女として」[3/3]

 ◇ ◆ ◇

やがて川岸の方から子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。どういう成り行きかは知らないが、高太郎さんと子供たちは、獲れたての魚を抱えつつ、カンフー映画の真似みたいにポーズをつけて笑いあっている。

三人とも、「良いおかず」を捕獲できたようだ。

「三人ともー、ご飯の仕度、できたわよー!」
声をかけると、三人とも小踊りするように駆けてくる。それぞれの手には獲れたての川魚。

「さっそく焼いて食べてみようか」
高太郎さんが満面の笑みで提案する。

「まだ生きてるよ?」
剛徳は、生き物と食べ物のつながりがいまいち理解できないようだ。

「イキのいいうちに食べるのよ?」
逆に晶子は、生き物と食べ物の関係に特に違和感を感じてはいないようだ。

「普段家で食べているお肉やお魚も、もとはこうして生きて動いているものを殺して食べ物にしているんだよ。そうして肉や魚を食べないと、人間は栄養が偏って、病気になったり、元気が出なくなったりするからね。」
高太郎さんは諭すように子供たちに語りかける。

「なんだか可哀相だな・・・」
剛徳は、ちょっと悲しそうな顔をして自分の獲った魚を見つめている。

剛徳は男の子だから、肉体的には強いが、精神的には本来優しいところがあり、ともすると少々引っ込み思案でさえある。
逆に晶子の方は、女の子だから、肉体的な「爆発力」はないものの、剛徳とは対照的に、むしろ私に似て打たれ強く、常に元気よく振舞おうとする明るさがある。

「他の動物の命をもらって私たちは生きるのね?」
晶子が納得いったという面持ちで相槌を打つと、高太郎さんはやわらかく微笑みながら、
「そうだよ、だから私たちの体の中には、彼らの魂が宿って支えてくれている、と考えることも出来るね。」
と、二人の子供たちに教える。

私は目頭に熱いもののこみ上げてしまうのをこらえながらみんなを促した。

「さ、お魚さんに命を分けてもらうつもりでいただきましょ?」
私たちは、目の前でまだピチピチと動く魚に手を合わせ、目を閉じると、心の中で「ありがとう」とつぶやくのだった。

やがてごく簡単に塩だけで味付けをし、石で組んだ炉で焙(あぶ)り、皆でつつきあって食べる。
普段街では海の魚ばかり食べている私たちは、川魚独特の風味をたっぷりと頬張るのだった。


 ◇ ◆ ◇

やがて私たち家族の時間は更に幸福な日々を重ね、秋が過ぎ、再び雪に閉ざされる冬の訪れを迎えるのだった。

夫婦共働きで、けっして豊かとはいえない暮らし向きではあるものの、私たち四人は一度も自分たちのことを不幸だなんて思ったことはなかった。私たちは多くの「物」を持ってはいなかったが、万が一それらの「物」さえ失ってしまったとしても、それでも自分たちのことを不幸だなんて思わないに違いない。

「物」は無くなってももう一度頑張って働けばなんとかそろえ直すことが出来る。だから、もし失ってしまっても、失ったその時にちょっと悲しい思いをするだけで済む。でも、積み重ねた「家族の時間」は、どんなに歳をとっても、どんな苦境に陥ったときでも失われることはない。いや、むしろ、歳をとればとるほど、苦境に立てば立つほど、「家族の時間」は輝きを増してゆくものだと思う。

やがて私と高太郎さんが歳をとってこの世にいられなくなる日が来る時、晶子と剛徳は、どんな思いであの輝くような夏の一日のことを思い出すのだろうか・・・。

子供たちが幸福な人生を送り、子から孫へとその幸福な日々が受け継がれてゆくことを願いつつ、私は今日も、新しい幸福の一日を紡いでゆく。


 ◇ ◆ ◇

【魔法戦艦リュケイオン】++放浪篇++家族の時間
「母として、女として」[3/3]---【完】