【土岐の惨劇】

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■第一章■土岐の惨劇

 ◇ ◆ ◇

ガガーーーン、

ガガーーーン・・・。

無数の銃口から放たれた銀の銃弾に射抜かれ、
今、1体のディフォミティ(放射能被曝奇形児)が倒れようとしている。

その姿は、世界の終末に太陽を呑み込むために放たれるというフェンリル・ウルフに似て、
2メートルを越す巨体からは、幾筋もの白煙が噴き出し、その形相は激しい怒りと苦しみに
ゆがんでいる。

折りしも唸り出す雷雨はしろがね色に磨き上げられたディフォミティの五体を容赦なく叩きつける。

土岐自治州知事神龍兵の、政治家として、父として、そして、1個の人間としての
尊厳をかけた最期の戦いが今、終わろうとしている。

「父さんっっ!!?」

思わず叫ぶ二人の子・いまだ10歳にも満たないジンギとさおりの、獣毛に覆われ長く突き出た口をふさぎ、
両脇に抱えるようにして土塁の陰で飛び散る泥水を浴びているのは、犬神龍兵の妻・若葉である。

倒れ行く夫・龍兵をまっすぐに見詰める妻・若葉の面立ちは、血気盛んなディフォミティの一族を
束ねる犬神龍兵が、かつて一目惚れしてしまったほど色白で艶やかだが、そのまなざしには、
ディフォミティの首長として今日まで不当な圧力に耐え抜いてきた夫との惜別の悲しみと、
遺される2人の子供たちへの憂慮が含まれていた。

今後、ディフォミティである龍兵と人間である自分との間に生まれた異形の子として、
父親以上に苦しい人生を歩んで行くであろう2人の子供たちに、父の最期を見極めさせようとする
覚悟が顕われていた。

「おのれ御屋崎!!
煬妃の私欲のためにこの俺を討つと言うのか・・・!?」

耐久力の消失に抗うかのように、犬神龍兵の口を突いて出たのは、政治家としての彼のすべてを
集約した言葉であった。

「我々支配者は何んのために支配するのか!?
それは、無知で身勝手で、ともすれば破滅の道を突進している事にさえ気付かずにいる小さな民衆の
未来を憂い、教育や法律によって彼らを導き助けるためではないか!
そのための政治的地位を、私欲のために濫用するとは・・・!!!」