2011-02-19 『花の命は短くて苦しきことのみ多かりき』:林芙美子 #小説 花の命は短くて 苦しきことのみ 多かりき 林芙美子 海が見えた。海が見える。 五年振りに見る尾道の海はなつかしい。 汽車が尾道の海へさしかかると 煤けた小さい町の屋根が提灯のやうに拡がってくる。 赤い千光寺の塔が見える。山は爽やかな若葉だ。 緑色の海、向こうにドックの赤い船が 帆柱を空に突き刺している。 私は涙があふれてきた。