[松本清張]【昭和史発掘〈1 〉】 (文春文庫)

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昭和史発掘〈1〉 (文春文庫)[新装版]
カスタマーレビュー
★★★★★ 権力に反抗する松本清張
├2010/7/10
├参考になった(10人中9人)
浦辺 登

この一冊には下記の5つの事件について、松本清張の視点で解説が加えられている。
・陸軍機密費問題
・石田検事の快死
・朴烈大逆事件
芥川龍之介の死
・北原二等卒の直訴

これらの作品が書かれた時代は高度経済成長中、東京オリンピックに日本中が湧きかえっているなか、昭和の事件を読み解いているのがおもしろい。
軍人が官僚化し、陸軍内での派閥争いの過程で生じた事件が陸軍機密費問題だが、世界大戦へと突入するきっかけが生まれたといっても過言ではないだろう。このなかで、代議士の中野正剛が国会質疑で機密費問題を取り上げていく。中野正剛は戦中、東條政権を批判して憲兵隊の弾圧の結果、抗議の割腹自決をしている。中野の葬儀委員長は戦後の自由党総裁である緒方竹虎である。文中、早稲田の学生で進藤という男を中野正剛が連れていたとあるが、この進藤こそ敗戦後に戦争犯罪人として巣鴨に収監され、衆議員議員、福岡市長を歴任した進藤一馬である。
すでに、松本清張が執筆中には素姓が分かっていたはずだが、それが記載されなかったのが不思議である。

また、「北原二等卒の直訴」を読んでいて「爆弾三勇士」を思い出した。自爆覚悟で敵の鉄条網を突破した三人の兵士を称えたものだが、その実、この兵士たちは被差別部落出身者であったという。軍隊での差別を跳ね返すために危険な軍務に従事したのだという。それは目前の敵というよりも、日本のいわれない差別から守るためであったともいう。
この差別ということに関して、ある意味、松本清張朝日新聞という組織に苦しんだ人だった。
孤立無援のなか、黙々と軍隊組織に抗する北原二等卒に松本清張の姿が重なる。
行間から松本清張の社会に対する憤りが湧きあがってくる。反面、庶民に対しての優しい眼差しを投げかけているのを感じる。いまだ、松本清張作品の人気が衰えないのは、清張がこういった視点を持ち合わせているからだろう。