【ジンギとさおり(1)】
父さんが死んで4年になった。
岐阜の山中にある土岐自治州は、父さんを中心として、ディフォミティも人間も
皆で力をあわせて作った豊かな町だった。
特に、核融合の技術では光徳王国中から注目を浴び、世界で唯一の「ヘリカル式核融合炉」の実験では、
州知事だった父さんも、自らが技術者の一人として全国の大学や研究機関から来た研究者たちを
指導していたのだ。
そうした研究者たちが集まってくる土岐自治州には、彼らの生活を支えるために多くのお金も
流れ込んできた。
ところが、そうして豊かになった土岐自治州を、力ずくで奪い取ろうとするものが現れた。
光徳王国の皇太子武人の第二妃、煬妃(ようひ)とその一族:火群の宮家(ほむらのみやけ)だ。
ヤツらは御屋崎信雄(みやざきのぶかつ)率いる「煬妃親衛隊」を使って土岐自治州を攻撃、
父さんは犬神一族の誇りにかけて最期まで戦い抜き、死んでいった。
◇ ◆ ◇
この4年、母さんと、姉さんとオレの3人は、名前も「兵頭芙美子(ふみこ)」「晶子(あきこ)」
「剛徳(たけのり)」と変え、はじめの1年は山奥に目立たないような小さな家と畑を作って、
ひっそりと暮らしていたのだ。
だが、土岐陥落直後には目の色を変えてオレたちを探し回っていた親衛隊も、最近では捜索の手を
緩めているようだ。
この3年間は、この三国自治州という小さな港町に出て暮らしている。
そして、新しい父さんが来た。
母さんの勤める会社の上役で、夏目高太郎という人だ。
だからオレも「夏目剛徳」になった。
母さんは、再婚すると仕事を減らし、家でオレたちの勉強や武術を教える時間を増やしてくれた。
「父さんがやり遂げられなかったことをあなたたちがやり遂げるの。
それが死んだ父さんへの最高の供養になるわ。」
オレは父さんが使っていた「フェアリウム・ソード」を使いこなし、いつの日か必ず煬妃と親衛隊を
倒してみせる。
そのためにはもっと強くならなくちゃいけない。
でも、勉強そっちのけで体を鍛えるオレに母さんは言う。
「大きな力を持っていても、乱暴な心でその力を使えば、あなたも煬妃や親衛隊と同じになってしまうのよ。
勉強もしっかりして、優しい心を身につけなさい。」
でも、オレは勉強なんか嫌いだ。
なんで1時間も2時間も小さい机に向かって小難しい本なんか読まなくちゃいけないんだ。
国語や算数で煬妃を殺せるのか?
煬妃を殺したい一心のオレに「優しい心」なんて必要ない。
オレは煬妃を殺すための大きな力さえ身につけられればそれで満足だ。
他には何一つとして必要なものは無い、と思っていた。
◇ ◆ ◇
「剛徳、ただいま。そろそろ帰ろう。今日は『お鍋』だってさ。」
夕暮れ時、稲荷神社の一角で木刀の素振りをするオレを、会社帰りの新しい父さん、
夏目高太郎が迎えに来た。
腹が出っ張っていて魚くさい。
だけど、新しい父さんのおかげで母さんも姉さんも嬉しそうに暮らしている。
休みの日には遊びにも連れて行ってくれるし、オレも特にキライではない。
「今日も頑張ってたんだな。」
「うん、オレ、強くなって悪いやつをやっつけるんだ。」
「そうか、正義の味方タケノリマンだな」
冗談交じりでそう言うと、新しい父さんはオレの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
オレは照れくさいような、恥ずかしいような、変な気持ちだった。
そしてオレは中学生になり、やがて夏休みがやってきて、新しい父さんは家族を渓流釣りに
連れて行ってくれたんだ。
岐阜の山中にある土岐自治州は、父さんを中心として、ディフォミティも人間も
皆で力をあわせて作った豊かな町だった。
特に、核融合の技術では光徳王国中から注目を浴び、世界で唯一の「ヘリカル式核融合炉」の実験では、
州知事だった父さんも、自らが技術者の一人として全国の大学や研究機関から来た研究者たちを
指導していたのだ。
そうした研究者たちが集まってくる土岐自治州には、彼らの生活を支えるために多くのお金も
流れ込んできた。
ところが、そうして豊かになった土岐自治州を、力ずくで奪い取ろうとするものが現れた。
光徳王国の皇太子武人の第二妃、煬妃(ようひ)とその一族:火群の宮家(ほむらのみやけ)だ。
ヤツらは御屋崎信雄(みやざきのぶかつ)率いる「煬妃親衛隊」を使って土岐自治州を攻撃、
父さんは犬神一族の誇りにかけて最期まで戦い抜き、死んでいった。
◇ ◆ ◇
この4年、母さんと、姉さんとオレの3人は、名前も「兵頭芙美子(ふみこ)」「晶子(あきこ)」
「剛徳(たけのり)」と変え、はじめの1年は山奥に目立たないような小さな家と畑を作って、
ひっそりと暮らしていたのだ。
だが、土岐陥落直後には目の色を変えてオレたちを探し回っていた親衛隊も、最近では捜索の手を
緩めているようだ。
この3年間は、この三国自治州という小さな港町に出て暮らしている。
そして、新しい父さんが来た。
母さんの勤める会社の上役で、夏目高太郎という人だ。
だからオレも「夏目剛徳」になった。
母さんは、再婚すると仕事を減らし、家でオレたちの勉強や武術を教える時間を増やしてくれた。
「父さんがやり遂げられなかったことをあなたたちがやり遂げるの。
それが死んだ父さんへの最高の供養になるわ。」
オレは父さんが使っていた「フェアリウム・ソード」を使いこなし、いつの日か必ず煬妃と親衛隊を
倒してみせる。
そのためにはもっと強くならなくちゃいけない。
でも、勉強そっちのけで体を鍛えるオレに母さんは言う。
「大きな力を持っていても、乱暴な心でその力を使えば、あなたも煬妃や親衛隊と同じになってしまうのよ。
勉強もしっかりして、優しい心を身につけなさい。」
でも、オレは勉強なんか嫌いだ。
なんで1時間も2時間も小さい机に向かって小難しい本なんか読まなくちゃいけないんだ。
国語や算数で煬妃を殺せるのか?
煬妃を殺したい一心のオレに「優しい心」なんて必要ない。
オレは煬妃を殺すための大きな力さえ身につけられればそれで満足だ。
他には何一つとして必要なものは無い、と思っていた。
◇ ◆ ◇
「剛徳、ただいま。そろそろ帰ろう。今日は『お鍋』だってさ。」
夕暮れ時、稲荷神社の一角で木刀の素振りをするオレを、会社帰りの新しい父さん、
夏目高太郎が迎えに来た。
腹が出っ張っていて魚くさい。
だけど、新しい父さんのおかげで母さんも姉さんも嬉しそうに暮らしている。
休みの日には遊びにも連れて行ってくれるし、オレも特にキライではない。
「今日も頑張ってたんだな。」
「うん、オレ、強くなって悪いやつをやっつけるんだ。」
「そうか、正義の味方タケノリマンだな」
冗談交じりでそう言うと、新しい父さんはオレの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
オレは照れくさいような、恥ずかしいような、変な気持ちだった。
そしてオレは中学生になり、やがて夏休みがやってきて、新しい父さんは家族を渓流釣りに
連れて行ってくれたんだ。