神経伝達物質と興奮・うつ・情動不安定との関係
【実験器具】『高架式十字迷路』
マウスを乗せて実験する「迷路」装置は、一見して、極めて単純な姿をしているが、「壁で守られた部分」と、そうでない部分とに分かれていて、マウスは自らの判断によって好きな道を選ぶ。「壁」のない道は、気をつけないと「落下」のリスクがあり、投与した薬剤等によっては、わざわざリスクの高い壁なし部分に入ってゆくマウスも現れる。
『高架式十字迷路』の測定・集計装置。
センサーを利用し、自動的にマウスの活動を測定・集計することができる。
★さすが「薬売りの富山」。関連産業の中身も一味違う★
マウスの”不安行動”を制御する
大脳内の仕組みの一端を解明
- 大脳皮質でセロトニン信号を伝達する受容体の一つが関与 -
- 大脳皮質でセロトニン信号を伝達する受容体の一つが関与 -
セロトニンの働きが阻害されると、ドーパミンやノルアドレナリンなどによる情報伝達をコントロールすることができず、精神状態が不安定になり、 “うつ”などの精神症状や不安行動を引き起こすと考えられています。
しかしながら、脳内のどの部位で、どのようにセロトニンが関与することにより、このような症状を引き起こすかは、よく分かっていませんでした。
国際研究チームでは、不安や“うつ”関連行動に関する脳内での作用メカニズムを明らかにするため、神経細胞から分泌されたセロトニンを、次の神経細胞に伝える役割を果たす10数種のセロトニン受容体※1のうち、その1つ(5-HT2A)を全身で働かなくしたマウスを作成し、実験を行いました。
このマウスに、不安や“うつ”関連行動を客観的に解析する「高架式十字迷路」などの課題を与えたところ、1つのリスク(不安)に対して、1つの選択肢しかない場合には、通常のマウスと違いが現れませんでした。
一方、2つ以上の選択肢があった場合、通常のマウスであれば葛藤の上、より低いリスク(不安)を選択しますが、5-HT2A受容体を欠損させたマウスでは、葛藤もせず、高いリスクを高頻度に選択しました。
さらに、行動遺伝学技術開発チームが開発した技術を用い、マウスの大脳皮質※2だけで5-HT2A受容体の機能を回復させたところ、通常のマウスと同じ行動を示すようになりました。これらの結果から、大脳皮質における5-HT2A受容体が、セロトニンの分泌にともなう、葛藤的不安行動に深く関与していることが分かりました。
◇ ◆ ◇
【用語】
セロトニン【serotonin】(5-HT)[大辞泉]
5-ヒドロキシ - トリプタミン。
神経伝達物質の候補。
血小板に含まれるものは血管を収縮する働きがある。