神経伝達物質と興奮・うつ・情動不安定との関係

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マウスの不安行動を制御する大脳内の仕組みの一端を解明
- 大脳皮質でセロトニン信号を伝達する受容体の一つが関与 -
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2006/image/pix.gif
平成18年7月28日
 
 脳内の情報伝達に重要な役割を果たすセロトニン(5-HT)は、行動の動機付けや快感時に神経細胞から分泌されるドーパミンや、恐れや驚きなど不快時に分泌されるノルアドレナリンと同じ神経伝達物質の一つです。セロトニンの働きが阻害されると、ドーパミンノルアドレナリンなどによる情報伝達をコントロールすることができず、精神状態が不安定になり、 “うつ”などの精神症状や不安行動を引き起こすと考えられています。しかしながら、脳内のどの部位で、どのようにセロトニンが関与することにより、このような症状を引き起こすかは、よく分かっていませんでした。

 国際研究チームでは、不安や“うつ”関連行動に関する脳内での作用メカニズムを明らかにするため、神経細胞から分泌されたセロトニンを、次の神経細胞に伝える役割を果たす10数種のセロトニン受容体※1のうち、その1つ(5-HT2A)を全身で働かなくしたマウスを作成し、実験を行いました。このマウスに、不安や“うつ”関連行動を客観的に解析する「高架式十字迷路」などの課題を与えたところ、1つのリスク(不安)に対して、1つの選択肢しかない場合には、通常のマウスと違いが現れませんでした。一方、2つ以上の選択肢があった場合、通常のマウスであれば葛藤の上、より低いリスク(不安)を選択しますが、5-HT2A受容体を欠損させたマウスでは、葛藤もせず、高いリスクを高頻度に選択しました。さらに、行動遺伝学技術開発チームが開発した技術を用い、マウスの大脳皮質※2だけで5-HT2A受容体の機能を回復させたところ、通常のマウスと同じ行動を示すようになりました。これらの結果から、大脳皮質における5-HT2A受容体が、セロトニンの分泌にともなう、葛藤的不安行動に深く関与していることが分かりました。