【地域で育てる(千葉県東金市)病院と住民 橋渡し 情報紙発行で問題意識共有 】

第5部・先進事例【1】 地域で育てる(千葉県東金市
病院と住民 橋渡し 情報紙発行で問題意識共有 
  2009/3/27 11:32
 
 徳島県の地域医療やがん対策、新型インフルエンザ対策などの課題を追ってきた連載「とくしま医療考」。シリーズ最終回となる第五部では、各分野における全国各地の先進的な取り組みを紹介する。(医療問題取材班)
 
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 「お医者さんの卵を市民の手で温めてみませんか」
 「どうなってるの?救急医療」
 
 こんな見出しが躍るA4判の情報紙「クローバー」が、千葉県東部・東金市の各戸に、自治会の回覧板とともに毎月届く。
 
 【毎月2万部配布】
 
 情報紙を発行するのは東金市NPO法人地域医療を育てる会(藤本晴枝代表、三十五人)。地域の基幹病院・県立東金病院などの現状と課題、地域の救急医療体制の紹介、住民の声といった盛りだくさんの内容を掲載する。発行部数は二万部。行政機関の窓口や病院、図書館にも配布している。
 
 二月号は東金病院が取り組む医学生向けの地域医療研修や、医学生と市民の交流の模様をリポート。研修後、医学生から届いた感想なども掲載した。
 
 千葉県の大規模病院は東京都に近い県西部に集中。東金市など太平洋沿岸の県東部ほど勤務医が不足し、地域医療の崩壊が叫ばれて久しい。
 東金病院は東金市と周辺五市町の「山武医療圏」(人口約二十三万人)と呼ばれる地域をカバー。市民生活に欠かせない基幹病院だが、勤務医不足が深刻化している。
 
 原因の一つは、他の病院と同様、二〇〇四年度に導入された新医師臨床研修制度。従来、地域の病院に医師を派遣していた大学病院の医局が医師不足に陥り、地方病院への供給システムが機能しなくなった。制度の影響で、〇四年に二十一人いた東金病院の医師数は二年後に半減。医療の維持に赤信号がともり始めた。
 
 「医療現場からのSOS、病院の実情を住民が知って、対話をしていかないと。病院と住民を橋渡しする情報紙は、医療崩壊という課題の解決に向けた初めの一歩です」と言う藤本代表(44)。医療機関と住民の情報共有の大切さを訴える。
 
 育てる会は、医師不足の現状に危機感を抱いた藤本代表が〇五年四月に設立した。住民、行政、医師の関係の在り方に疑問を抱いたことも大きなきっかけだ。
 
 医療崩壊の問題は、行政や病院だけが考えるものでしょうか。住民は『何とかしてほしい』と依存するだけではだめで、現実を冷静に受け止めて対案を出せるくらいにならないと」。藤本代表はこう力説する。イメージ 1
 
 【若手医師と懇話】
 
 育てる会の活動のもう一つの柱が、若手医師育成へのかかわり。東金病院と共催で「研修医と住民の懇話会」を毎月開催。医師は、育てる会メンバーや公募の市民に健康講話を通じて病気予防の知識を伝える。市民は医師との質疑応答や意見交換を通じて講話を「採点」。医師のコミュニケーション力の向上につなげている。
 
 藤本代表は言う。「『医療が、行政が、ああしてくれない、こうしてくれない』と言って待っている間にも医師は減っていく。それならば病院を何とか助けるために声を上げ、仲間を集めて動けばいい。医療が崩壊してもしなくても、わたしたちはこの地域で生きていくんですから」。
【写真説明】「医療崩壊の問題は行政や病院だけが考えるものでしょうか」と疑問を投げ掛ける藤本代表=千葉県東金市