林芙美子【放浪記】
海が見えた。
海が見える。
五年振りに見る尾道の
海はなつかしい。汽車が
尾道の海へさしかかると
煤けた小さい町の屋根が
提灯のやうに拡がってくる。
赤い千光寺の塔が見える。
山は爽やかな若葉だ。
緑色の海、向こうにドックの
赤い船が帆柱を空に
突き刺している。
私は涙があふれてきた。
海が見える。
五年振りに見る尾道の
海はなつかしい。汽車が
尾道の海へさしかかると
煤けた小さい町の屋根が
提灯のやうに拡がってくる。
赤い千光寺の塔が見える。
山は爽やかな若葉だ。
緑色の海、向こうにドックの
赤い船が帆柱を空に
突き刺している。
私は涙があふれてきた。
[月臣の書評]
たとえひどい仕打ちに遭おうとも、恋愛なしには生きられぬ女の性が激しく描かれ、
苦しい生活の中でも創作する心を捨てなかった芙美子の生きざまに共感。
苦しい生活の中でも創作する心を捨てなかった芙美子の生きざまに共感。
尾道の千光寺山の「文学の道」には、作中からの引用による石碑がひっそりと置かれている。
[著者] 林芙美子
[出版社名] 新潮社 (ISBN:4-10-106101-7)
[発行年月] 2002年12月
[サイズ] 571P 16cm
[価格] 780円(税込)