【犬神龍兵の最期】

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男性的な強さと大胆さで一族を統率し、土岐自治州を発展させてきた犬神竜兵の最期の弁舌に、
周囲を取り巻く半獣半人の犬神一族も、煬妃親衛隊の将兵も、しばし静まり返っている。

「我々犬神一族は、不当な抑圧に屈する生よりは、名誉ある死を選ぶ!!」

力強く一族を指揮し、先頭に立って闘っていた父が悲運にも銀の銃弾に撃ち貫かれ、
今にも炭のように崩れ落ちようとしつつも、なお一族の誇りについて断言するさまに、
ジンギもさおりもただただ目を見開き、滂沱と滴り落ちる涙と、喉から漏れ出ようとする
鳴咽とを堪えることができなかった。

「者共!正真正銘、この戦いが我々の最期の戦いだ!!
 出来得る限り多くの敵を道連れに、我ら犬神一族の、
 偽りなき正々堂々の戦いを歴史に残すのだ!
 総員、突撃!!!」

ワアアアーーーッッという閧の声と共に、半獣半人の犬神一族の兵士達は、
魔法と科学で重装した煬妃親衛隊に突進していった。

土岐自治州の政治の中枢たる議事堂を中心とした一帯から激しい銃声と喚声が続き、
要塞のようにぐるりと議事堂を取り囲む省庁の建物の中心から硝煙が上がった。

数千人の煬妃親衛隊に包囲された犬神一族は、やがて次々と倒され、喚声は消えていった。

大江山の民衆を、ディフォミティも人間も分け隔てなく愛し、自治州全体の幸福と
その増進を願った州知事・犬神竜兵とその一族は全滅し、彼らの善政のシンボルだった議事堂は
木っ端微塵に爆破され、ここに、のちの人々が「大江山の平和」と賛美する事となるひとつの時代が
幕を閉じた。

戦闘と、それに続く破壊・掠奪が終了し、瓦礫の山を捜索した結果、
黒焦げになって頭や手足が崩れ落ち、辛うじて本人であると分かるか分からないかという有様の
州知事・犬神竜兵をはじめ、全滅した一族の惨たらしい遺体が確認された。

各々の遺体が身につけていた遺品や、歯形・DNAなどから、個々の氏名などが判別されたが、
それらの中には、次の三名の証拠だけは発見できなかった。

その三名とは即ち、犬神竜兵の妻・犬神若葉、その長男・犬神ジンギ、長女・犬神さおりである。

「御屋崎大佐、犬神母子3名の遺体、発見できません!」

御屋崎の、肉が垂れ下がるほど醜く肥え太った脂顔は、部下の報告にニヤリと歪む。

「了解した。この件については煬妃殿下に奏上の上、捜索範囲を広げて仕切りなおしとしようぞ。」

以来、御屋崎信雄大佐以下、煬妃親衛隊6000名が、
失踪した犬神母子三名に対する執拗なまでの捜索を怠る事は決してなかった。